DJI事件が示す技術的デカップリングの法的側面」の内容を。
1. 事件の概要
2025年9月26日、米国コロンビア特別区連邦地裁は、中国のドローンメーカー「DJI(大疆創新科技)」を「中国軍事企業(CMC)」に指定した米国国防総省(国防省)の判断を支持しました。
この指定は、2021会計年度国防権限法(NDAA)第1260H条に基づくものです。
国防総省は、DJIが中国政府からの「支援」を受けていると見なし、軍民融合(MCF)政策の一部として軍事利用の可能性があると主張しました。
DJI側は、軍事関与の証拠がないことや、紛争地域への製品供給を避けていること、政府系投資家が存在しないことを根拠に反論しましたが、裁判所は国防総省の主張をより重視し、ブラックリスト入りを維持しました。
2. 法的論点
(1) 証拠基準の弱体化
裁判所は、国防総省が提出した不完全な証拠をそのまま受け入れ、反対側の主張を十分に検証しませんでした。
これにより、通常の司法審査に必要な「相互検証」の原則が事実上軽視された形です。
(2) 当事者平等の原則の変質
国家安全保障が関わる訴訟では、しばしば「国家機密」を理由に証拠の非公開が認められます。
その結果、行政機関の決定が裁判所による統制から外れ、被告の防御権が制限される危険性があります。
(3) 予防原則の優先
「国家安全保障」は事前的な概念であるため、リスクが明確でなくても措置を講じることが許容されます。
この判決も、「危険を未然に防ぐ」姿勢を取っていますが、証拠に基づかない決定が司法判断の原則を損なう懸念があります。
3. 技術的デカップリングの一環
この判決は、単なる個別事件ではなく、米国が進める「対中技術分離」政策の一部と位置づけられます。
米国は安全保障を理由に、中国企業の米国内ハイテク市場からの排除を進めていますが、TikTok事件のように完全な支配には至っていません。
4. 今後への影響
DJI事件で確立された「不完全な証拠でも国防上の判断を優先できる」という前例は、中国企業以外にも適用される恐れがあります。
その結果、他国や民間企業も「中国との関係」を断つよう圧力を受ける可能性があり、意図的なデカップリング促進策とも考えられます。
5. 「法による戦争(Lawfare)」の定着
国家安全保障を名目に司法判断を誘導する動きは、「法の支配(rule of law)」よりも「法律による支配(rule by law)」を強化します。
これは、立法不在を補うために司法が政治的役割を担う状況を生み、権力分立の原則を侵食します。
6. 供給網という新たな戦場
技術サプライチェーンは今や中立ではなく、国家戦略の一部と化しています。
しかし、原材料や生産能力の不足により、短期的な再構築は困難です。
7. 「ローテク」の地政学的重要性
高性能チップや量子技術などの「ハイテク」だけでなく、ドローンのような「ローテク」も国家安全保障の焦点になりつつあります。
中国の軍民融合(MCF)戦略は、軍事・民間両分野の境界を曖昧にするため、企業の軍事関与を明確に区別することが難しい状況を生んでいます。
8. 結論
DJI事件は、国家安全保障が国際競争の「通貨」と化している現実を示しています。
安全を守るために法の原則を緩めることは、短期的には有効でも、長期的には「法の支配」という西側社会の根幹を損なう危険をはらんでいます。
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