火星探査、科学と神話の狭間で

NASAの探査車「パーセベランス」が過去の生命の痕跡かもしれない化学的な兆候を発見したことにより、火星探査への関心が再び高まっています。火星にはかつて生命が存在できる環境があった可能性があり、科学的研究の重要性は一層増しています。しかし、人類が実際に火星に住むことは、依然として技術的・科学的に大きな課題を伴います。その中心にあるのが「水」の問題です。

MITテクノロジーレビュー・イタリアは、この課題について「ダヌンツィオ大学」准教授であり、惑星科学国際研究スクールの主任研究員でもある小松吾郎教授にインタビューを行いました。

小松教授は、火星の地質学的な歴史や現在の大気、水の存在状態、地形を研究しており、特に「どこに水が存在するのか」を探ることが、人類の将来の探査や定住の前提条件になると説明しています。現在、火星表面は極めて乾燥しており、安定した液体の水は存在しません。極地には氷が露出していますが、中緯度では地下に氷が埋もれている可能性があり、その調査が重要視されています。

水が現地で確保できれば、人類は輸送コストを大幅に削減できます。こうした地下氷の探査は、将来の居住地の選定とも直結しています。しかし、火星の大気は二酸化炭素が主体で薄く冷たく、仮に氷を溶かしても液体の水は安定しにくいのが現実です。いわゆる「テラフォーミング(火星改造)」は現段階ではSF的構想に近く、現実的にはドーム型の居住施設など限定的な人工環境の方が実現可能性が高いと指摘されます。

また、水資源の存在は将来の国際競争にも影響する可能性があります。初期の探査では地球から水を運ぶことが可能でも、長期的な定住には現地の水利用が不可欠です。そのため、水資源が豊富な場所は戦略的に重要な拠点となり得ます。

さらに、小松教授は火星大気の課題についても説明しています。低重力下でも大気は長期的に保持可能ですが、地球のように呼吸可能な空気をつくるには莫大な資源と技術が必要です。酸素や窒素の供給、温度を上げるための温室効果ガスの確保は極めて困難です。

結論として、小松教授は火星全体を地球のように変えることは当面不可能であり、限定された施設で生活することが現実的だと述べています。

火星への関心は純粋な科学だけでなく、文化や政治的な動機にも支えられています。SF文学が人々の想像力を刺激し、国家的な威信や冒険心も火星探査を後押ししています。ただし、経済的な即時利益は乏しく、大規模な植民は近い将来には難しいと考えられています。

小松教授は最後に、人類の長期的な未来についても言及しました。もし人類が火星や他の惑星で生き続けるなら、私たちは生物学的・文化的に進化するのか、あるいはバイオテクノロジーで身体を改造するのか、それとも仮想現実の中で生きるのか。火星は科学的挑戦であると同時に、人類の未来を映す鏡でもあると締めくくりました。