ICEブロック、米国司法省、そして検閲の新たな境界線

この記事は、米国で移民当局(ICE)を見かけた場所を利用者が共有できるアプリ「ICE Block」が、Apple/Androidのストアから削除された出来事を手がかりに、「法の支配」を迂回する形で政治権力が民間プラットフォームを通じて言論や抗議の手段を抑える構図が広がっているのではないか、という問題提起を行っている。

1) 何が起きたのか

記事によれば、2025年12月8日に、ICE職員の目撃情報を地図化するアプリ「ICE Block」の開発者が、米司法省(DOJ)による削除要求をめぐって提訴したと報じられた。

その後、AppleとAndroid側は、DOJからの通報を受けて「ストアの利用規約(Terms of Service)に違反している」としてアプリをストアから削除した、という整理が示されている。

2) 争点は「合法・違法」よりも「削除のさせ方」

記事は、「警察等の位置を一般市民が追跡・共有することの是非」そのものより、行政(行政府)がどのような手段で配布停止という結果を実現したかが重要だと述べる。つまり、裁判所の命令ではなく、プラットフォーム規約を根拠に“削除させる”形が中心になっている点が焦点だ、という見立てである。

3) 「公共の安全」には理解できる面もある

記事は、捜査官・警察官の位置情報が共有されると、犯罪者に有利に働いたり、現場職員が攻撃対象(“動く標的”)になり得る、という懸念自体は理解できるとしている。

一方で、警察活動を市民が広く監視・記録すること(地域の統制の有無を確認する等)は、市民の政治的権利にも関わり、簡単には否定しにくいとも述べる。

4) 過去から繰り返される「ソフトウェアをめぐる矛盾」

記事は、1990年代初頭の強力暗号PGP(Phil Zimmermann)を例に挙げ、権力側が暗号や匿名性を「捜査の悪夢」として抑えようとする一方で、同種の技術が権力側にも利用されるという矛盾が、形を変えて繰り返されてきたと述べる。

さらに近年の例として、各国で通信アプリ等への制限・介入が語られ、こうした動きが加速しているという文脈に位置づけている。

5) 筆者の中心主張:プラットフォームが「非公式な国家権力の延長」になり得る

記事が強調する共通点は、利害衡量と事実認定を伴う司法判断ではなく、「予防」「国家安全保障」などの名目で、行政府の政治判断が先行しやすい点にある、という指摘である。

そしてICE Blockのケースでは、法律による明確な禁止がなくても、ストア規約を使えば配布を止められるため、プラットフォームが実質的に国家権力の“非公式な拡張”になりうる、と論じている。

6) 最終的な問題提起:抗議・ dissent(異議申し立て)の限界を誰がどう決めるのか

ICE Blockは、一般的な位置情報サービスと異なり、移民政策に対抗するという「政治的意図」が明確な技術だと記事は述べる。論点は技術そのものより、「目的」と、それを阻止しようとする権力の意思にある、という整理である。

結論として、技術を通じた異議申し立ての権利をどこまで制限するのかは民主主義の根幹に関わり、もし制限が必要だとしても、厳密な司法審査と真剣な公開討論なしに決めるべきではない、という警告で締めくくられている。

A longer text in English is here.